こんな日もある!


昨日の朝、車に乗せてもらって、幹線道路の渋滞の中をゆるゆると、ある私鉄駅に向かって走っていた。 助手席に座っていた僕は、何とはなしに左側の歩道を見ていた。 そこに、目を疑うような光景が飛び込んできた。


歩道をかなりのスピードで走っていた自転車が、突如ゴンっとつんのめり、荷台が跳ね上がり、ほとんど逆立ち状態になったかと思うと、乗っていた若者は、ハンドルだけ片手で持ったまま空中で1回転するような形でドーンと地面に叩きつけられたのだ。 なんとまあ、それがあまりに鮮やかで、映画を観ているような錯覚を起こすほどだった。 しかしそんなことを言っている場合ではない。


「わっ」 と僕が叫び、隣で運転していたMさんも、「えげつなぁ!」 と唸った。 どうなることかと見ていると、まだ高校生ぐらいの感じのその若者は、むくっと起き上がって自転車を起こしにかかったので、大事には至らなかったようである。 とりあえず、安堵した。


その場所を見たら、歩道の行く手に、ぎりぎり自転車1台分が通れるほどの狭い間隔の2本の車止めの杭が打ち込んであって、そこを若者はスピードを落とさずに走り抜けるつもりだったようだ。 多分その杭のどちらかにペダルがひっかかったものと思われる。 スピードが出ていたので後輪の勢いに抗しきれず、自転車が逆立ちになったのだろう。 投げ出された男は、若いので身が軽かったことが大怪我につながらなかったようだけれど、歩道をフルスピードで走るからこういうとんでもないことが起こるのだ。


さて、僕は昨日の朝、なんのためにその車に乗っていたのか…。


この日から始まった春の全国交通安全運動のキャンペーンのお手伝いのため、駅前へ、啓発ティッシュを配りに行く途中だったのである。 なのに、いきなり自転車の事故を目撃してしまった。


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夕方、僕は仕事を1時間早退させてもらい、月1度の血液検査のために、いつものクリニックへ行った。 毎日服用している血液凝固抑制剤ワーファリンの効き具合と、糖尿病と尿酸値の数値を確認するための血液検査である。 その検査を終え、薬をもらって自転車で帰途についた。


比較的狭い道路を自転車で走っていると、後方から、けたたましい爆音を響かせながら、3台のミニバイクが僕を追い抜いて行った。 乗っている3人は、白のカッターシャツに黒のズボン姿で、明らかに男子高校生である。 3人ともヘルメットをかぶらず、キャアキャアと声を掛け合い、じゃれ合うように蛇行しながら、猛スピードで僕の左右を通り抜けて追い越して行ったのだからたまらない。 


「うっ、危ない!」とこっちはヒヤッとした。 まったく〜こいつら。 このバカたれめが! そう怒鳴ってやりたかった。


と、その瞬間、目の前で、2台が接触して真ん中のバイクが転倒して、一人の高校生がもんどりを打って道路へ放り出されたのだ。 僕はまた、 「わっ!」 と叫んだ。


バイクはクルクルっと回転しながら数メートル先へ滑って行った。 僕から20メートルほど前でのできごとである。 これまたなんとも劇的で、現実とは思えない。 アクション映画を観ているような光景であった。 


一日に2度もこんな場面を目撃したのは、長い人生の中でも初めてのことである。


しかし、激しい衝撃を受けて倒れた高校生は大丈夫なのか? 彼は道端に横たわったままピクリとも動かない。 大きな音がしたので、道沿いの家の中から人が出てきた。 通行人も驚いて見ている。 これは大変だぞ、と、僕は自転車を止め、倒れている男子を見てから、他の2人を見た。 信じられないことに、彼らは道の両側でバイクに乗ったまま、倒れている友人を指差して、「あはははははは」と大声で笑った。 「痛いわなぁ。これは痛いぞ。あはははは」 とバカ笑いを続けた。


こいつら、アホか。


「おい。大丈夫か?」と、自転車から降りて、声をかける。


道路の真ん中で、横向きに倒れていた高校生は、少しすると「ウーン」と唸り声を上げ、今度は仰向けに大の字になった。


「大丈夫か?」ともう一度、声をかける。

ほかにも通行人が2、3人来て、心配そうに覗き込む。

その間、両サイドの2人はゲラゲラ笑いっぱなしである。

「痛いわ、これは痛いわぁ」


やがて、高校生は自分で起き上がった。 肘や尻や膝をさすっている。 多少の打撲はあるようだが、それ以上のことはないのだろう。 どこかが出血している様子もなかった。
「あはははは」 と一段と声を張り上げて笑う両側の2人には、あきれて物も言えなかったが、転倒した男子高校生には、
「あんな運転してたら、そのうち死ぬで」
そう言って、僕は自転車にまたがった。
すると、彼は、フン! という挑戦的な顔で、僕とまわりの人たちの顔をひととおり見まわしたあと、次に、ゲラゲラ笑い続ける2人に向かい、怒鳴りつけるのか、と思ったら、なんと、ニタ〜ッと笑ったのだ。
情けない…というか、なんと言うか…。


そこから自宅へ帰るまでの5分間ぐらいに、また後ろから似たようなけたたましい音を立てて猛スピードで走るミニバイクに、何台か追い抜かれた。


これが昨日、5月11日、春の全国交通安全運動の初日の出来事である。

交通安全運動が聞いてあきれるような一日であった。

皆さん、交通事故には十分注意してください。