お酒に関する質問


答えようのない質問をされたとき、言うまでもなく、答えようがない。 よく、 「どれぐらいお酒を飲みますか?」 と聞かれることがある。 この質問に答えるのはきわめてむずかしい。 答えようがないのだ。


僕はお酒は好きである。 ビール、日本酒、焼酎、ウィスキー、ワイン、ジン、ウオツカ、ブランデー。 何でも構わない。何だって飲む。 だから、お酒が話題に上ったときは、時間を忘れるほど盛り上がる。 もちろん、相手も酒飲みであることが条件だけれども…。


困るのは、あまり親しくない人から、 「お酒をどれぐらい飲まれるのですか?」 と聞かれたときなのだ。 「まあまあ飲みます」 だけでは、あまりに形式的すぎる。 「底なしです」 と自分で言うのは、アホである。 底は、やっぱりあるもんね。 …かと言って 「つき合い程度です」 ではわけがわからない。 どれくらい飲むのかという 「量」 を説明しなければならない。 しかも、相手があまり酒を飲まない人だとなると、余計に量を説明することがむずかしくなってくる。


それでも、よく聞かれる。ごく最近は体調に問題を抱えているので、お酒は控え目にしているけれど、それまでは、だいたい以下のような話になる。


「あなたは、飲みに行くとどれぐらい飲まれるのですか?」
「ふ〜む…。どれぐらい、と言われても…ねぇ。どれぐらいでしょう?」
自分でも、わからないのである。酒飲みって、みんなそうでしょう?


そういうとき、必ずといっていいほど、 「ビールにしたら、何本ぐらいですか?」 と聞かれるのだ。 これもよくわからない質問である。 「何本」という表現も、それが瓶なのか缶なのか、はっきりしない。 瓶であれば大瓶なのか中瓶なのか? 缶ならレギュラー缶か、500cc缶か? おまけに、飲むのはビールだけではない。 わしらはビールだけでは終わらんのだ。 いろんな酒をちゃんぽんにして飲む。 アルコール度数の異なる酒を、どうビールに換算せよと言うのか?


たとえば…
生ビールをジョッキー2、3杯飲んだあと、焼酎をお湯で割り、それを数杯飲んでから、のどが乾くと今度は瓶ビールをグラス数杯、さらに熱燗を、注がれるままにお猪口でグビグビとやっているうち、ウィスキーのロックなどが飲みたくなって何杯かキュっとやり、するとまたのどが渇き、再び生ビールを1杯だけ注文し、口を爽やかにしたところで次は冷酒を飲む… さて、ビールに換算すると、何本飲んだことになるでしょう…?


わからんやろ! そんなこと。


もっと困るのは、病院での診察や人間ドックの問診である。 そこには、必ず 「お酒は飲みますか?」 と質問がある。「はい」 と 「いいえ」 のどちらかに○をつける。「はい」 の場合、「毎日飲む」 「時々飲む」 とに分かれている。 「毎日飲む」に○をつけると、今度は、いよいよ量である。 「ビールにして、大瓶1本程度、大瓶2本程度…」 とか書かれているのである。 どこかに○をつける。 あれはいったい、どの程度の参考にされるのであろうか。 いっそ、「大酒を飲む」と書いてやろうかと思うけれど、そこはつつましく、「1日ビール2本程度」と書いておく。 こんな欄、どうってことないだろ、と開き直るほかはないのだ。


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昔は、お酒を飲んで前後不覚になったことはしょっちゅうあった。 タクシーで帰って、翌朝、はて、自転車はどこへ置いてきたのか? あちらこちらを探しても見つからないままのこともあった。 大事な財布をバッグごと無くしてしまったこともあった。 夜中に千鳥足で帰宅したものの、ドアの鍵がうまく穴に入らず、ガチャガチャと1時間以上も玄関で鍵穴と格闘していたこともあった。 また、立ったままブロック塀にもたれ、そこへ顔をこすりつけたのか、朝、鏡を見たら、鼻の下から顎にかけ、縦一文字に傷が入っていたり、ベッドから転げ落ちて、ひたいに大きなたんこぶができたり、家の近くの川に落ちたりして、まあ、よく無事に今日まで生き延びてきたことだと思う。


しかし、僕の友達には、僕など足元にも及ばぬ豪傑が沢山いる。 マラソン仲間で○○市の体育館に勤務する石田君(仮名)は、酔って家までたどりついたけれども、玄関の前で寝てしまった。 朝、小学生の娘さんがドアを明けると、父親が外でグウグウ寝ている。 「お母さ〜ん。ちょっと来て」 「どうしたの?」 「お父さんがね、プランターを枕にして寝ているわ。自転車を、体の上に乗せているの。お布団だと思ってるんだ」


飲んだ帰り道、自転車ごと溝に突っ込んで前歯3本折った者もいた。 それでも本人はそのまま自転車に乗りなおして家まで帰っている。 朝起きたら、口から顔から血だらけになっているので驚いた。 よくよく思い出してみたら、溝の中に激突した光景が浮かんできた…


こんな話を聞くと、僕などまだまだ小人物だと言わねばならない。 しかし、大人物になれないうちに、最近病気をしたりして酒量が減った。 減ったおかげで、肝臓の数値や血糖値などが、軒並み正常値に下がった。 人生、何が災いになり、何が幸いになるかわからない。


だから、今なら、 「お酒、どれぐらい飲むのですか?」 と聞かれても、そんなに悩むこともなく、すんなりと答えられそうである。


ちょっと口惜しいけれど…。