3週間で一生が変わる?


日曜日のA新聞には読書欄がある。


書評や売れている本の紹介などが5ページにわたっているから、ざっと読むだけで1時間ほどかかるけれども、読み始めると時間を忘れる。 僕の好きなページである。


この間、最も驚いたのは、 「売れている本」 のコーナーが、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」 (亀山郁夫・訳) であったことだ。 同じドストエフスキーでも 「罪と罰」 のほうは、推理小説的趣向もあり、登場人物も限られるので読みやすいが、こちらはいろんな人物が出てくるし、人間関係も複雑で、思想もかなり難解である。 むろん、世界文学でも最高峰の一作と言われている長編で、広く読まれて不思議はないのだけれども、 「売れている本」 として紹介され、特に若い読者が多い、というのがちょっと不思議であった。 その理由を読んでみると、従来の訳本とは違いわかりやすく訳されてある、ということと、栞に登場人物の一覧を記してある、ということで親しまれているのだそうだ。 「わかりやすく訳す」 というのが、いいことかどうかわからないけれども、ともあれいま売れている本は「カラマーゾフの兄弟」だった。


その他、本をめぐるさまざまな記事が、今週も満載されていた。
書評がまた心憎いほどうまいので、あれもこれも読みたくなる。


記事の下の広告欄には、本の宣伝がずらりと並ぶ。
ここの広告欄も、結構楽しめますね。


ふと見ると 「3週間続ければ一生が変わる」 (ロビン・シャーマ。北澤和彦訳)という本の宣伝があった。


  驚異のベスト・ロングセラー 31万部突破!

  「3週間続ければ一生が変わる」

  あなたを変える101の英知


その横に本の概要が箇条書きにしてある。


  ・ 考えているより実行する
  ・ 小さなことを考えない
  ・ 一日のはじめに“プラチナの30分”を持つ
  ・ あやまちから得た恩恵を書き出す
  ・ 失敗する勇気を持つ
  ・ 相手を理解し、大切にし、尊重する
  ・ 自分から運命を引き寄せる …… ほか


う〜ん。 これだけのエッセンスを並べてもらったら、もう本を買って読む必要はないんじゃないか、と思うほどですね。 それに、まあ、ナンですけれども、書いてあることは、それほど新しいことではありませんよね。


さらに、この本を「読んだ人たち」の感想が面白い。



  [ 読者の声続々 ]


  ・ 大事なところに赤線を引いていったら、
    本が真っ赤になってしまいました。
                 (30代・女性)



  ・ いつもは図書館で借りるが、この本は
    素晴らしくて買わずにはいられなかった。
                 (70代・男性)


わかりやすい評価ですね。
3週間で一生が変わるんだから、1680円出して買っても高くはないかな〜、と少しは思ってしまう。


と思っていたら、そのとなりに同じ著者の、


「3週間続ければ一生が変わる・PART2」の宣伝が出ていた。


   忽ち6万部!
   最高の自分に変わる101の英知
   きょうからできる最良の実践法


な〜んだ。 パート2も出ていたのか。


1作目が「あなたを変える101の英知」
2作目が「最高の自分に変わる101の英知」


…で 「3週間続ければ一生が変わる」 はずが、合計6週間かかり、101の英知も倍の202の英知が必要になり、お値段も1680円の倍になる。 なんだかたいそうな話になってきた。 


いつになったら一生が変わり、英知がつくんだか…。


まさか、次にまた3作目を出してくるんじゃないだろうね。
タイトルは、 「6週間続けても一生が変わらない人のために」
…だったりして。


まあしかし、これだから、本の宣伝は面白いと言える。


「1週間でマスターするイタリア語」 という本を買って、それを熟読したけれど、十年経った今でもマスターできない僕なのである。 それでも、こういう本には性懲りもなく手を出してしまう。


でも、今度は買わない。
僕は誕生の日から今日まで、計算すると3,042週間生きてきた。
それをたった3週間で変えようというのだ。
いかにも無謀…、という気がしませんか?