お米の話


この間から1歳7ヶ月の“もみぃ”がずっと我が家にいる。 それで毎日、妻は面倒をみるのにてんてこまいの様子である。 育児というものは24時間休みなしの超過重労働であるということを改めて知った。 男には、なかなかそれがわからないものなのだ。


さて、先週の土曜日の夜、夕食も終えて、僕はテレビで「NHK特集」を見ていた。

そばで妻が、「あれ? お米がもうないわ」 と困った口調でつぶやいた。 「買うの、忘れてた…」 ということだったので、午後8時半を過ぎていたが、駅前にある大型スーパーまで、僕が自転車でひとっ走り買いに行くことにした。

食料品の買物はいたって好きな方なので、一人でもよく買いに出かけるのだけれども、お米に関しては、僕の頭の中では、好きなビールや焼酎の陰に隠れてしまって、毎日いったい何の銘柄のお米のご飯を食べているのか、全然知らないほどで、からっきし無知である。

「お米って、何を買ったらええの?」 と、外出用の服に着替えながら、僕は妻に尋ねた。

「別に…何でもいいんだけど、まあ、 “もみぃ” が食べるので、なるべくいいお米を買ってきてほしいわ」
妻は、 「10㎏入り」 を指定したけれど、銘柄は僕に任せる、と言っただけだった。

任せる、って言われてもなぁ…。

スーパーの地下食料品売り場に降りて、僕はお米売り場へ行った。

いろんな銘柄のお米が並んでいる。 自慢じゃないがアルコール類売り場は隅々まで詳しい僕であるが、お米売り場はいつも素通りしているので、今日初めて、コシヒカリというお米は新潟のものだけではない、ということを、この場で知ったぐらいのお米オンチで、したがってこの売り場にも縁が薄かった。

2㎏、5㎏、10㎏といろいろな大きさの袋があったが、これは10㎏と決まっているので問題はない。 要はどのお米を買うかが問題なわけで、改めて売り場に並べられているお米をじっくりと、順々に「視察」していった。


福井県コシヒカリ
石川県のゆめみずほ
富山県コシヒカリ(これは“広告の品”とあった)
新潟県魚沼産のコシヒカリ
秋田県あきたこまち
青森県のゆめあかり
北海道のきらら


こうして見て行きながら、ふと遠い昔の自転車旅行を思い出した。
20歳のとき、70日間をかけて、大阪から北海道の最北端を折り返しとする東日本一周の自転車の一人旅をしたことがあるのだが、このお米の産地をみていると、福井 → 石川 → 富山 → 新潟 → 秋田 → 青森 → 北海道 … と、自転車で走ったのと同じコースの地方のお米が順番に並んでいた。

「あ〜、思い出すなあ…」

38年前を思い出し、ちょっと感慨に耽ったりした。 まあ、こんなことを人に言っても 「それがどうしたん?」 と首を傾げられるだけだろうけど…。

ふ〜ん。お米っていろいろとあるんだなあ。 どれがいいのだろう…?
と、それらのお米の値段をチェックしながら、あれこれ思案している僕の目に、最後に飛び込んできたのが宮城県産の 「ひとめぼれ」 だった。 ちなみに、10㎏で4,680円の値段だった。 10㎏袋に限って言えば、北海道の 「きらら」 は2千円台、その他のお米は3千円台が多かったので、値段的には、妻が 「なるべくいいお米を」 と言った要望にかなっていた。 これだ、これにしよう!

僕は 「ひとめぼれ」 の10㎏袋にしがみつくようにして両腕で抱え上げ、よ〜いしょっとカゴの中に入れたのだった。

家に持ち帰ると、妻は 「ひとめぼれ」 に満足そうだった。 そして、彼女は、袋に貼り付けてあった賞品の当たる応募シールを目ざとく見つけ、横にいた長男といっしょにそれを覗き込んで、 「何が当たるのかしら?」 と楽しそうにシールを剥がし、さっそくハガキを取り出してきて、応募先の宛名を書き始めた。

長男は、シールの小さな字を読んで、「牛タンが当たるのだ!当たってほし〜い」 とつぶやいた。 彼は、肉に目がくらむ男なのである。

… というような、土曜日の夜の、我が家の1シーンでした。

ところで…
妻に「なぜこのお米を選んだの?」と聞かれたら…
「このひとめぼれに、ひとめぼれしたからさ〜」
と答えようとひそかに考えていたのだけれど、何も聞かれなかった。
残念。 ひとこと、聞いてほしかった。