市民病院はどうなる?


いま、市民病院などの自治体病院の多くが深刻な赤字に悩んでいる。僕の身近なところでも、1日何百万円という莫大な赤字を出し続けている病院があり、それらの赤字は、一般会計、つまり市民の税金等から補填されている。市民病院を抱えている自治体の住民は、この赤字は他人事ではない。自分たちの収めた税金で病院の赤字が埋められているのである。最近の新聞もこの問題を取り上げていることが多いけれども、地方自治体にとっては、病院の台所事情はまさに「火の車」なのである。


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4月の統一地方選挙で、僕が住んでいる市の現職の市長が、よもやの敗北を喫するという波乱があった。現職市長は、老朽化した市民病院を新たに建て替えることを公約に掲げ、一方、もう一人の候補は、病院建設は莫大な赤字を生み、そうなると本市は財政破綻をして、北海道夕張市と同じようになる、と真っ向から反対意見を訴えた。その結果、病院建設反対を表明した新人候補が市長に当選するという番狂わせが起きたのである。「夕張と同じようになる」という文句が、テレビなどで連日報道された夕張市の様子を見て知っている市民の危機感を煽ったことが、この陣営としては功を奏したといえる。


正直に言うと、僕も新病院の建設には反対であった。大阪には大病院から小さな開業医まで、医療機関はあり余っている実情である。地域で一つしかない総合病院なら、それは是が非でも存続させなければならないが、人口や面積に比して、これだけ総合病院も含めた医療機関の数が多いところに、膨大な赤字を出し続ける自治体病院を存続させることに、どれだけの意味があるのか、ということを真剣に考えなければならない時期に来ているのではないかと思う。


なぜ、自治体病院が赤字になるのか?
それは、まず第一に、救急医療や「不採算部門」とされる医療を担わなければならないからである。


救急医療は、24時間、医師や看護師が待機する。しかし、それほど多くの救急患者が来るわけではない。まあ、来ないに越したことはないのだけれども、人件費が嵩むわりには、患者数が少ない。一晩中、誰も来ないことだって、ある。


「不採算部門」と言われるのは、たとえば小児科がそうだ。乳幼児を抱えるお母さんたちにとって、小児科の存在は、いざという時の頼みの綱である。これが最大の「不採算部門」なのだから問題は複雑である。
赤ちゃんはものが言えないので医師も判断が難しい。ウンギャーと騒いだり暴れたりするので、「医師と患者」だけでは済まず、身体を押さえたりする看護師などが多い目に必要であって人件費がかかる。そして、乳幼児は外来で終わることが多く、入院は少ない。出す薬は大人に比べて少量だ。これらも「金にならない」わけで、しかも赤ちゃんはデリケートな体だから、リスクも大きいので訴えられる確立も高い。つまり収入より支出のほうがはるかに多くなり、効率が悪いのだ。
同様に「リハビリ医療」なども効率が悪い、と言われている。


逆に形成外科などは、すこぶる「儲かる」部門だ。
また、最近、整骨院が急増しているのは、保険制度が緩和されたのでどんどん患者が来るようになり、これもまた「儲かる」のである。


自治体病院の衰退の原因の二つ目は、医師不足である。
たしかに、公立病院というものは、地域に欠けている医療を提供するという責任上、「利益」があがらない「不採算部門」を抱えざるを得ない。だから、これまで地域のために、採算を度外視して頑張ってきたのである。それでも、膨大な赤字を累積する、ということはなかった。自治体病院はけっこう患者さんで賑わい、それなりに収入も安定していたのである。
しかし、その公立病院にとって致命的な制度改革が行われ、これが今日の全国の自治体病院の膨大な赤字を招く原因となった。それが「新臨床医研修制度」というものなのである。


2004年(平成16年)にこの制度が導入された。
それまで、新卒の医師のほとんどは、大学医学部の医局に在籍し、強い人事権を持つ大学当局から、地元の公立病院などに派遣をされていたのであったが、新しい臨床研修医の制度では、医師が自分で行く先を決められるようになった。
彼らは、地方の病院や公立病院を避け、実践的な技術を学ぶための魅力ある病院を選ぶことになり、給料が安く、拘束時間も長い市民病院などに来ることを嫌がったのである。ここから公立病院の医師不足が生じることになり、今日に至っている。


医師が少なくなると勤務も過酷になり、やめて行くケースが増える。医療スタッフの充実していない病院には、患者も来なくなる。おまけに不採算部門を抱えているので、民間病院のようにおいしい部門だけに絞って他を切り捨て、経営部門のみに全力を挙げるということができない。


日々、募っていく赤字。
疲弊する自治体の財政に、追い討ちをかける苦しい病院経営。


いま、病院を抱えている自治体の最大の課題は、この病院経営をどうするか、ということだと言っても過言ではない。僕の今の仕事も、間接的にこのことに関わっており、自分の在籍する公共団体にある病院(これも、大変な赤字を抱えている)について、このまま存続か、民間への委託か、縮小か、廃止か、あるいは建て替えるか…
その重大な岐路に立っているところである。
議会では特別対策委員会が設置され、今後の方向性を探っている。


先週の5月17日と18日に、こうした病院経営では先進的な経営改善対策を講じている愛知県の2つの病院に、議会から視察へ行った。僕もその一行に混じって参加し、実際にそれらの病院がどのようにして赤字の解消と地域医療の充実に取り組んできたかということを見聞してきた。


次回には、そのことについて書きます。






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