市民病院を視察



先週17日と18日、愛知県の東南部に位置する2つの市の市民病院を視察した。


A市の病院では、これまで、医師不足から、脳外科、産婦人科、小児科などが次々と休診に追いやられ、通常の運営では立ち行かなくなった。そこで、病院改革委員会というものを設置して、抜本的な対策を進め、今では徐々にその効果が表れ始めているところだという。


その最も中心になっているのが、40年間、民間の病院の経営改善に携わってきた岡本さん(仮名)という方である。岡本さんは、市長の要請で「事務管理官」という形で病院に迎えられ、改革の先頭に立ち、既成概念を覆す斬新的な発想で大胆な提言を次々に投げかけて、一定の成果につなげてきた、ということであった。


「初めてここへ来たときは、もう驚くことばかりでした」
岡本さんは僕たちに開口一番そう言って、まず公務員体質を批判した。
「これでは、この病院経営はよくならないなぁと思いましたよ」
とにかく事務職員の意識の低さが目に余る。一定期間勤めれば人事異動で他課へ変わる…そういう意識で仕事をしているものだから、病院を良くしよう、という気がない。特に上に立つ部長や課長がそんな態度だから、前途のある若手職員にもそれが感染してしまい、病院の事務局全体に無気力感が漂い、ただ、言われたことをしていればいい、という空気に流されていた。やる気の無い部長、課長は降格すべきだ、と手厳しい言葉を発しながら、「私はこのことを、毎日言い続けているんですよ」と岡本さんはカラカラっと笑うのであった。


事務職員の、従来の公務員体質そのままの勤務態度では、魅力的な病院はめざせない。岡本さんは、そこから出発し、人事評価制度を改め、能力のある者が昇格するというシステムを採り入れ、給与面でも優遇する措置を講じるよう提言した、ということである。
まあ、これは、病院に勤める職員に限らず、公務員全般に当てはまることであるが、病院は収支がはっきりと数字に出るだけに、このことは一層現実味を帯びてくるといえる。


そして、病院のかなめとなる医師不足をどう解消するか、という問題であるが、岡本さんによると、どう考えても自治体病院の医師の給与は安すぎる。もっともっと年俸を上げ、待遇を良くすることが医師を奮起させ、医療環境の充実を図り、患者数を増やすことになる、というはっきりした意見を述べた。つまり、医師の年俸を見直す。優遇する。そうすれば他の病院に移ったりしないし、開業医として独立するということもなくなるだろう、ということである。
「開業医になりたがっている医者は、ここ(市民病院)で開業していると思ったらいいのですよ」
と岡本さんは、市民病院の建物自体を、開業の場所提供だと思ってくれたらいいと医師たちに常々言っている、と述べた。そして、いま、医師の年俸について改善を図っているところだという。
ただし、市民病院の医師は地方公務員であり、その給与表に基づいて本俸のワクは決められているので、各種手当を大幅アップすることで今は対応しているらしい。


どうやら、赤字の病院を救う手立ては、高い年俸で良質の医師を確保して世評を高め、併せて事務職員の資質と経営感覚も磨き、市民に愛される病院としての条件を整えると、患者数も自然に増え、外来はもとより、何百とあるベッド数に見合うだけの入院患者も増えていく、ということであろう。まあ、簡単な話である。つまり、潤沢な資金と、職員の意識改革が、ほとんどのポイントを占めるのである。


翌日に行った愛知県のB病院も、よく似た経営改善であった。やはり、職員の公務員的発想の排除と、医師確保のための年俸アップということが考え方の基本であった。それができないのなら、民間に委託してしまうか、病院自体を閉院すべきであるという提言を受けたという。


先のA病院では、岡本さんという豊富な経験と並外れた発想を持つ人の舵取りによって、徐々に経営改善の方向が見えてきた。しかし、それでも赤字は現在も続いている。医師の年俸を上げるというのは、さらに金が要るということであり、財源に乏しい病院としてはそう簡単に断行できることでもない。生半可なことではこの問題の全面的解決は難しいということを、改めて思い知らされた視察でもあった。


参考までに、夕張市立病院副院長のブログをご紹介します。

    http://blogs.yahoo.co.jp/yubari0359