23 札幌での再会

  自転車の旅  〜 昭和44年 夏 〜  第23回




タブチさんとばったり。そしてピーターも…



     


       




7月9日。午前中は、札幌市内めぐりをした。
ユースホステルから、格安の市内観光バスが出ていたので、同じ泊り客たちといっしょにそのバスに乗って、あちらこちらの観光名所を見物した。

時計台。
裁判所。
ビール工場。
雪印乳業
羊ヶ丘。
北海道大学…など。

午後からは大通り公園のベンチに寝転んで、昼寝をした。





 サッポロビール工場を見学。




     
   羊が丘。




     
スタンプの一番下に 「札幌オリンピックを成功させよう」 の文字がある。3年後の1972年、札幌でわが国初の冬季五輪が開催されようとしていた。    




        
       大通り公園。




夕方、ユースホステルに戻ると、入口のところに外国人の男女が立っていた。
はて、見覚えがあるなとそばに行って顔を見たら、案の定、白老でいっしょだったピーターとエレンだった。
ピーターは僕を見るなり顔を輝かせ、
「オー! ホワイト・オールド!」 と叫んだ。
まわりに他の宿泊客もいる。あまり大きな声で叫ばないで欲しい。
そのあと、2人から矢継ぎ早に英語で話しかけられた僕は、一刻も早くその場から消えたかった。僕の「英語バカセ号」 は白老でしか通じない称号であることを、彼らは理解できないのだ。あのときは、成り行きと勢いにまかせ、まわりの人たちの盛り立てに乗じて身振り手振りを交えての演技が大半で、まともな英語など、一言もしゃべっていなかったろう? 
「何言ってるのかわからん。ごめん」 
そういうジェスチャーをして頭を掻きつつ、僕はピーターとエレンの饒舌にたじたじになって、なんとかこの場をしのごうと、必死であった。
ピーターとエレンは互いに顔を見合わせ、きょとんとして、
「変だなぁ、この人、白老では英語がしゃべれたはずなのに〜」
という戸惑った表情をするばかりであった。
僕はうにゃむにゃとごまかし、隙をみて部屋へ逃げ込んだ。
やれやれ。冷や汗が出る。

…とは言っても、2人とは思いがけない楽しい再会であった。
しかし、もっと思いがけない再会があった。

あの、新潟のエミちゃんに会う前日、長岡市に入る直前の峠の上で出会った自転車日本一周のタブチさんと、ユースホステルの前で、ばったり出くわしたのである。 もちろん、お互いに顔はよく覚えていた。
「やぁ!」 と真っ黒な顔をしたタブチさんは、とてもうれしそうな顔をして、
「どこかでビールでも飲もう」 
と僕を近くにあった食堂に誘った。

よく冷えたビールをグラスに注ぎ、僕たちは再会を祝し、乾杯した。タブチさんは、きょう札幌に到着したところで、とりあえず駅前の安宿に投宿したとのことだった。

「札幌で2週間ほど滞在しようと思ってる。何かバイトをさがしてね。札幌の街をゆっくり見てみたいし、 “渡り鳥” の生活も少しは休みたいからねぇ」
タブチさんはそう言って、おいしそうにビールを飲み干した。




      
  タブチさんと。

  

タブチさんが書いてくれた絵と文。





タブチさんとの最初の出会いは6月3日のブログに掲載。