46 再び函館へ

自転車の旅  〜 昭和44年 夏 〜  第46回



ヒッチ好きの大将と、またトラックで函館へ





再び函館へ帰ってきた。 今度は新宿の大将と二人連れだ。





大将と僕の2人とも、このやたらに広く雄大な北海道の道路を、自転車でコツコツ進んで行こうという殊勝な心がけは、もはや失いつつあった。


大将などは前を向いて走っているより、ヒッチをするのに適当なトラックが来ないかと、後ろを振り返るほうが多いありさまである。とはいっても、そう簡単にはトラックも停まってくれない。ウトナイ湖から苫小牧、そして懐かしい白老と、僕らは忍耐強く自転車をこぎ続けた。
そして登別を過ぎた。時間は午後4時になっていた。



     






あと10キロほどで室蘭に着くという地点で、「幸運」が訪れた。函館の青果市場へ行くというトラックに拾ってもらったのである。ここから函館まで約200キロ。自転車だとあと2日はかかる距離である。
「ラッキーだぜぇ!」
と大将は例によって大喜び。
僕も、今夜はもう本州と目と鼻の先のところで泊まれると思うと気分が浮き浮きした。


このトラックの運転手さんも親切な人で、途中、
「景色のいいところだから記念写真を撮ればいいよ」
と、わざわざ夕映えの洞爺湖まで寄り道をしてくれた。





    



函館に着いたのは午後9時ごろだった。


「ベッドハウス」 という看板の上がった木賃宿に入る。恐ろしく無愛想な男が案内してくれた部屋は他の部屋との間仕切りもなく、2人で800円という値段でもまだ高いと思うようなお粗末な宿であった。客も、浮浪者に近いような男たちが多い。僕と大将は、貴重品をビニール袋に入れ、それぞれの腕にくくりつけて寝た。


翌7月31日。
「どうだい、ここまで来たら急ぐこともねぇだろ」 
と大将。
ヒッチを繰り返し、むやみに急いでいるように見えるのはあんたですよ…まったくぅ。 でもまあ、もちろん僕にも異存はない。 基本的に、僕は、何だっていいのである。


それでは今日1日、函館でゆっくり過ごそうということになった。
明日は8月1日だ。
きりがいいので、明日に、フェリーで本州の下北半島に渡ることにした。
今日は函館でゆっくり過ごし、北海道の最後の1日を楽しもう。