68 平泉から石巻へ

自転車の旅  〜 昭和44年 夏 〜  第68回



途中で自転車で転倒して怪我をする




 



8月9日。平泉の中尊寺を出て、この日は石巻まで行く予定である。一関市内を走っていたとき、この旅行で最大のアクシデントに遭った。


追い風に背中を押されつつ、かなりのスピードを出していたのだと思う。


ギアを切り替えたその瞬間…。
ガクン! 
と、いきなり、体が前にのめった。
ギアの歯とかみ合っていたはずのチェーンが、外れたのだ。
もちろん、その瞬間には、何が起こったかわからない。
ペダルが、クルクルクルっとカラ回りした。
僕の脚は、ペダルから外れて空を切るかたちになった。
体は支えを失い、バランスが大きく崩れて、前方につんのめるように、自転車ごと横転し、道路上に叩きつけられた。


すぐ後ろで、車が急ブレーキをかける音がした。


頭を打たなかったのが幸いだった。
体重45キロの軽い体が、転んだときの衝撃をやわらげたのだろう。
大きな怪我は、なかったようだった。
それでも、左の肘からかなりの血が出ていた。
自転車を寄せて見ると、ハンドルが歪み、元に戻らない。
曲がったハンドルのまま、自転車を押して歩いていると、
自転車店が見つかったので、そこで直してもらうことにした。


店の人は、僕の肘から血が出ているのを見て、
「転んだの? 危ないねェ…」
そう言いながら、僕の肘に消毒液をかけてくれ、赤チンを塗ってくれた。
それが沁みて、飛び上がるほど痛かった。


…調子に乗って、スピードを出しすぎると、こんなことになる。
僕は気を引き締めて、自転車店を後にした。


一関を出ると、間もなく宮城県に入った。


そのあと、国道4号線からそれて、進路を左にとり、石巻に向かった。


石巻は、大勢の人出で、とても賑わっていた。
駅の近くへ行くと、巡査が出て、交通整理までしていた。
石巻の駅前には、


祝 石巻 川開まつり 8月8日〜8月10日


という、四角錐の大きな看板が、ドヨヨ〜ン、と立っていた。


混雑の中、駅前の食堂に入って、220円のカタ焼きそばを食べる。
ついでに、マーケットに入って缶詰などの食料を買い、店のおばさんに
「にぎやかですね〜」 と話しかけると、
「日本全国から人がやってくるんだよ。花火もあってねぇ。
 ここの花火は、日本一なんだから」
おばさんの表情は、誇らしげだった。







石巻駅前は、川開きのお祭りで賑わっていた。
左の看板には、「祝石巻川開まつり 8月8日〜8月10日」と書かれていた。




その日は、どこへ泊るというアテもなかったのであるが、
通りがかった石巻工業高校へ入って行き、当直の先生に頼んで、校庭の隅に、テントを張らせてもらうことにした。