日本陸上選手権を見て

昨日6月29日、長居競技場へ行ってきました。
自転車旅行の記事は中断して、今日はとりあえず昨日の第91回日本陸上競技選手権大会第1日目の速報をお伝えします。


昨日は暑かったし湿度も高かった。
大阪の天気予報は午後から雨だったが、昼に早退して自転車で長い競技場へ向かった僕は、思いも寄らぬ強い日差しに帽子もサングラスも持ってこなかったことを悔やんだ。途中、コンビニでパンとお茶を買い、汗だくになりながら、競技開始の1時少し前に会場に到着して、ふうふう言って階段を上がり、係の女の子に3日間通しの切符を見せた。
「あの〜、これを…チケット売り場で今日のチケットにかえてもらってください」と言われてしまい、またもや階段を走り下りてチケット売り場をさがし、窓口で今日、明日、あさっての3枚の券にかえてもらった。
  


 
この階段を上がって下りて、また上がる。




メインスタンドの前から3列目に座ったら、プラスチックの椅子があんまり熱かったので飛び上がってしまった。カッターシャツに革靴という格好で、自転車を今まで漕いでいたこともあって、もう暑くて暑くて、気持ち悪いったらない。あおぐウチワもない。めまいがしてきた。


まあ、そんなことで、ぼや〜んとした頭で競技場を見渡す。
メインスタンドを除いてはほとんど観客の姿はない。
野球などに比べると、陸上競技は本当に人気が薄い。


午後1時。女子の走り高跳びから競技は始まったが、トラックで言えば第3コーナーのあたりなので、フィニッシュライン近くに陣取った僕からは、選手の姿はきわめて見えにくい。オーロラビジョンっていうのか、第1コーナーのスタンドの上に設置されている大型映像装置を見て選手を確認し、バーに向かって走り始めたら第3コーナーへ首をまわして実物を見る。ああ、しまった。望遠鏡も持ってくるのを忘れた。忘れてばっかりである。


トラック種目は女子の100mハードルが1時半から始まった。
このハードルというのは見ていて迫力がある。
それこそ、一瞬の風のように、華麗なる一団がハードルを飛び越えながら目の前を過ぎ去ってゆく。素晴らしい。





躍動感が伝わる女子100mハードル(予選)。




今日のお目当てのひとつは、女子400mの丹野麻美だ。
福島大学日本記録保持者。
予選のこのレースでは、ゴール前は軽く流してむろん1位。



女子400 m 予選。 ゴール前、丹野がトップ。




上空には厚い雲が出始め、少し涼しくなってきた。
目の前では男子走り幅跳びが行われている。
みんな若くて、背が高くて、スリムで、かっこいい。
僕の前に2人の女子中学生が座っていて、キャッキャ騒いでいるが、きっと陸上選手なんだろう、選手が跳ぶたびに「あっ、今のは7m30くらいだね」とか、「だめ! 踏切線にあわせてスピードに乗れなかったじゃん」とか、なかなか専門的な見方をするのが面白かった。そんな子が、携帯の写真を掲げて、かっこいい選手たちをパチパチ撮影している。


女子1500メートル予選には駅伝などでなじみの深い小林祐梨子が出ていた。


時々雨らしいものが顔にかかる。
午後5時過ぎにスタートした男子5000mでは、高岡の記録を破るのでは、と期待していた三津谷が中盤から松宮に一気に加速されてついて行けず、2着に破れた。タイムも平凡。暑さに加えて湿度が高いことが影響しているのだろう。じっと座って見ているだけでも息苦しくなるほどなのだから。それと、今回は世界選手権の代表選考会でもあり、記録より勝負、という感じなのだろうね。


男子400mハードルで為末が、200mで末續が登場し、会場はかなり盛り上がる。2人とも、他の選手とはスピードが違う。実際のレースをこの目で見てみると、はっきりとそれがわかる。「ものが違う」という表現がぴったりなほど、大きな差が他の選手との間についてしまっている。





男子400mハードル予選。 為末のスピードは 「別物」 だった。




 
男子200m の予選のスタート直前。
末續がオーロラビジョンに映し出されている。



女子3000mSC(障害レースのことをSCと呼ぶ)では、ベテランの早狩が圧倒的に強かった。女子にとっては過酷なレースだと思うが、一人ひとりの間にものすごい差がつくレースである。レース後半になると、ポツンポツンと選手が走っている感じ。よけい、苦しそうに見えた。


6時半に最終レース、女子1万mがスタートした。
福士加代子に大きな声援が飛ぶ。
テレビで観るよりも真っ黒に日焼けしている。出場選手の中でも一番黒い。オーロラビジョンで見る福士は、例によって白い歯を見せ、隣の選手となにやら楽しそうに話している。
レース直前に、また雨が降ってきた。今度は大粒の雨だ。うしろの観客に気を使いながら、傘を差す。みんな傘を指し始めたころ、雷が鳴り、稲妻が光る。しかし、レースが始まったら、またやんだ。






女子10000m の模様を、女性カメラマンが追う。


「ふくしぃ! もっと前に出ろ」とすぐ横でどなるおっちゃんがいた。
ひげを生やしたヤクザみたいな60がらみのおっちゃんである。
メガホンを持っている。
どんな関係なんだろう、福士とは…。
レースはトラックを25周する。
そんなに早々と前に出る必要はないだろう。
先頭は、渋井と、三井住友海上の同僚が交互に出ている。
福士は、なるほど、ちょうど真ん中ぐらいである。
虎視眈々、というふうに見える。


選手がメインスタンドにさしかかるたびに、
あちらこちらから一人の選手に対して黄色い声援が飛んでいた。
「キヌカワさ〜ん。ファイト!」
最前列に制服を着た女の子が2人。僕の後ろにも数人。
「キヌカワさ〜ん」の声援が、まわりに爽やかに響く。
選手名簿を見ると、絹川愛(めぐみ)という選手だった。なんと高校生ではないか。さきほどから声援を送っている子たちは、同じ高校の生徒なのだろう。


レースは残り7周のところ、メインスタンド前で福士が、先行する渋井を抜いて先頭に出てぐいぐい差を広げていった。
「よ〜し、よし、出よったぞ、出よったぞ」
と、ひげのおっちゃんが満足そうに連れの人たちに笑いかけている。


福士が独走態勢に入ったあと、2番手争いは渋井と絹川である。
「キヌカワさ〜ん。ファイト!」の声援も、悲鳴に近くなる。


福士がゴール!
渋井が絹川をふり切って2着でゴール。
そして、絹川がふらふらになってゴールインした。



  
全力を出し切った絹川は、ゴール後、大の字になってノビてしまった。





しばらくして立ち上がった絹川 (右端。ナンバー23)
だが、このあと、また倒れて係員に運ばれる。
インタビュー後、過呼吸症状で救急車に…。


新しいヒロインの誕生だ。
僕は彼女のファンになった。
少し肩のとんがった体型で、全身を使って走るフォーム。
その独特の走り方からも、純朴さとひたむきさを感じさせる。
今朝の新聞では、世界選手権代表も確実だという。
8月。ぜひこの大阪長居の舞台で、再び輝いてほしい。


女子1万mは思いがけないドラマを見せてもらって満足した。


帰り道は自転車で家まで50分かかった。
傘を差したりすぼめたり…。


酔った。…ビールを飲んだわけではない。
陸上競技の素晴らしさに酔ったのか、暑さに酔ったのかわからない。力の限界まで出しきって3位になった絹川サンと同じぐらい、僕はきょう、あるだけの体力を使い切り、消耗しつくして、抜け殻のようになった身体で家に倒れこんだ。アスリートたちの力感あふれた躍動と、あまりに対照的な自分の体力のなさが、絶妙のコントラストであった。
とほほ。