27 稚内 (下)

自転車の旅  〜 昭和44年 夏 〜  第27回




稚内市内をぶらぶら。水族館などを…


翌7月14日。札幌の2人は、朝早く、宿を出て行き、帰途についた。
昨日の午後、そして今日の未明から朝にかけて雨が降ったが、幸い、2人が出て行くときには雨は止んでいた。


またひとりになった僕は、洗濯をしたあと、自転車屋へ行き、調子の悪くなった変速ギアを修理してもらうとともに、緩んだブレーキ、外れやすいチェーンなども整備してもらい、そのあと北端のノシャップ岬まで自転車を走らせた。
観光客でごった返していた宗谷岬より、人一人いないこの岬の風情のほうがはるかに印象としては良い。





  



そのあと、「日本最北・ノシャップ寒流水族館」へ行ってみた。
まぁ、この街では、どんなものがあっても、「日本最北」に違いない。


ほとんどお客さんはいなかったが、水族館は、なかなか見ごたえのあるものであった。
プランクトンの拡大投影機がある。
サケ、マスの1年生と2年生が泳いでいる。2年生は相当大きい。稚内の駅の水槽にもいたが、1年生はのサケ、マスはほんとうに小さくて、まるでメダカのようである。
水ダコの泳ぐ姿を見る。実にグロテスクである。足の部分にミミズのようなものが飛び出して、これが別の生き物のようにウニョウニョ動いているのはいかにも醜怪である。
オオカミウオ。こいつはまた人相が悪い。前歯が4本ニョキニョキと飛び出して、たとえようもなく怖ろしい。全身が真っ黒で、その姿全体から、底知れぬ悪意を感じてしまう。


階上のほうには、電気うなぎやナマズがおり、ピラニアもいた。
むかし、「緑の魔境」 という映画を見た。
アマゾン川のピラニアたちが、川に落ちた生きた牛をまたたくまに食い尽くし、白骨にしてしまうというシーンには、背筋が寒くなったけれども、この魚もそばで見ると、下半身が橙色に染まって美しい姿をしており、顔もオオカミウオを見た後ではたいそう可愛く感じる。
他にチョウザメの剥製、ジャングル水族館など、見世物は多彩であった。


外に出るとアザラシがいた。
1頭だけ、ちいさなプールのようなところで、すぐ目の前にいた。
あどけない表情にカメラをむける。僕がいることなどには全く頓着せず、アザラシは退屈そうに水に潜ったり、顔を出したりを繰り返していた。


入場料の80円は、宗谷岬までのバスの片道運賃230円に比べて、ずいぶん安い。
満足して水族館を出た。


郵便局に寄って現金を引き出し、札幌のサイクリストに書留を送る。
宿舎に戻ったら、後は別にすることもなく、ベッドに寝そべって、手紙を書いたり居眠ったりして、夜までの時間を過ごした。


明日からは、オホーツク海に沿ったコースを走る。


部屋でいっしょになった名古屋からの十代のサイクリストによると、オホーツク海に沿った道は舗装をしていない地道がほとんどで、トラックの多いところもあり、自転車では走りにくい部分が多い。おまけに、顔がホコリにまみれて真っ白になる、と言っていた。


「あるところでトイレに入って、自分の顔を鏡で見てびっくりしましたよ。髪も眉毛も真っ白で、まるで浦島太郎になったみたいでした」







   



   
可愛いけど、子どもか年寄りか…わからない。